東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部 部長・准教授
住谷昌彦

 本邦では筋骨格系に中等度以上の痛みのある患者数が2000万人以上と推察されており、このような慢性疼痛によりADLとQOLが大きく低下していることが明らかにされています。さらに、痛みを持つ患者さんを支える家族の苦悩や負担も非常に大きく、痛みの克服は重要な課題です。

 我々は、痛みが不快な身体的かつ情動的経験であることから、認知行動療法の考え方を基盤として、薬物療法や脊髄刺激療法、運動療法を適切に組み合わせた科学的根拠に基づく疼痛医療の実践を重視し、国際疼痛学会が定義する痛みの診療施設の中で最も上位の機能を有する集学的疼痛センターMulti-(Inter-)disciplinary Pain Center(下図参照)としての役割を果たすことを目指しています。

集学的疼痛センターとして機能するために、麻酔科医だけでなく他の疼痛関連診療科・部の医師やメディカルスタッフと有機的に連携し、痛みだけでなくADLやQOLが改善することを目標に設定した診療を提供しています。

今後は痛みの克服という課題にむけて集学的疼痛センターとして様々な研究を推進し、疼痛のメカニズム解明や新規治療の開発に繋げたいと考えています。また我々は医師、メディカルスタッフや研修医だけでなく、医学部生・薬学部生・看護学部生等へも幅広い痛みについての教育の機会を設けています。今後このように疼痛治療の専門家を育成することによって、まだ本邦には数少ない集学的疼痛センターを充実させていきたいと考えております。